骨盤臓器脱手術
骨盤臓器脱とは
膀胱・子宮・直腸・腟などが腟口から脱出する状態を骨盤臓器脱と呼びます。子宮全摘後でも腟が裏返しになったように下がることがあります。出産・加齢などにより骨盤底の筋肉(骨盤底筋)が緩み、支持組織が損傷されることが原因と考えられています。米国の調査では女性が80歳まで生きると、約1割がこの種の状況で手術を受けると報告されているほど頻度の高い疾患です。
骨盤臓器脱の手術とは
メッシュという網目状の布を使用する方法と、使用しない方法があります。メッシュは、キズが修復する過程で網目に組織が入り込みしっかり固定されるようになるため、再発が少なく、膀胱瘤や直腸瘤、断端脱にも対応可能と言われています。しかし糖尿病やステロイド使用中など感染が危惧される方は、メッシュを使用しない方法が望ましい、と言われています。どの術式が適しているのか、主治医との相談が必要です。
1.腟から手術する方法
経腟メッシュ手術 TVM(メッシュ使用)
腟壁からメッシュを挿入し、臓器をハンモック状に支えて治療する手術方法が経腟メッシュ手術TVMです。
基本的には子宮は残したまま子宮の前側(腟と膀胱の間)や後ろ側(腟と直腸の間)にメッシュを挿入し、メッシュのアームを周囲の靭帯や筋膜に貫通させて固定します。
お腹からメッシュを固定する手術より、短時間で済むメリットがあります。
近年ではメッシュの面積を必要最小限に変化しています。
2014年4月から合併症例は日本女性骨盤底医学会に登録報告し、TVM手術に関する講習会を受講した専門医師のみが行うようになりました。
その他の経腟手術(メッシュを使用しない手術)
①腟式子宮全摘術+腟壁形成術
腟から子宮を摘出し腟壁を一部切除する、従来から行われている術式です。子宮脱には有効ですが、膀胱瘤や直腸瘤には効果が少なく、手術後に腟が再下垂するといった再発が高い(約3割)と言われています。そのため仙骨子宮靭帯固定術を追加し、腟断端の一部を溶けない糸で子宮周囲の靭帯(仙骨子宮靭帯)に縫い付け、永久的な固定を目指します。
②腟閉鎖術
下垂している腟を縫合して閉鎖する術式です。膀胱瘤や直腸瘤などにも効果があると言われています。麻酔のリスクがある人には子宮を取らない場合もありますが(中央腟閉鎖術)、基本的には子宮全摘をして腟閉鎖(全腟閉鎖術)を行います。
2.お腹から手術する方法
従来は開腹手術で行われていましたが、近年では腹腔鏡で行われるようになりました。子宮筋腫や卵巣のう腫などの疾患があっても、対応でき、開脚制限などの理由で腟からの手術ができない人でも可能です。
腹腔鏡手術の傷
仙骨腟固定術(メッシュ使用)
子宮体部を切除し(子宮亜全摘)、子宮頚部と膣壁をメッシュで腰椎(仙骨)の骨膜に縫い付けて吊り上げる手術です。子宮がない人は腟壁のみを吊り上げます。
腟からメッシュを挿入する方法と比べると手術時間が長くなりますが、メッシュ露出のリスクが低く性交渉も可能、と言われています。比較的若い方に行います。
腹腔鏡によるメッシュ手術は2012年から一部の施設で先進医療として行われていましたが、2014年4月から保険適応になりました。
仙骨子宮靭帯固定術Shull法(メッシュを使用しない手術)
子宮に病変がある人に腹腔鏡下に子宮を全摘し、腟断端を子宮周囲の靭帯(仙骨子宮靭帯)に縫い付けて吊り上げる方法です。溶けるまで時間がかかる糸を使用します。腟式子宮全摘で行うより、尿管損傷のリスクが少なく、腟断端の全長を固定することができます。
〈参考〉関連手術
尿失禁防止手術
TVT/TOT手術(メッシュ使用)
傷の付き方は手術内容や腹腔内の様子によって異なります。
膀胱から外へつながるオシッコの「とおり道、尿道」を吊り上げて尿漏れを改善させる手術で、テープ状のメッシュを使用します。通す場所(恥骨後面/閉鎖孔)の違いでTVT手術またはTOT手術と呼ばれてます。咳やくしゃみの時や力を入れた時に尿が漏れる状態を「腹圧性尿失禁」と言います。腹圧性尿失禁は骨盤臓器脱に合併している場合があり、骨盤臓器脱の手術の時に尿失禁防止手術を同時に行う場合もあります。
また骨盤臓器脱の手術では、術前に感じていなかった尿失禁が術後に出現する場合があります。骨盤臓器脱ではもともと膀胱下垂により尿道が曲がっていることが多く、それが手術で矯正されることで腹圧性尿失禁が出ると考えられています。多くは時間とともに軽快しますが、軽快しない場合には、後日、尿失禁防止手術を行うことがあります。
手術以外の治療について
骨盤底筋訓練(体操)
軽度な場合には骨盤底筋訓練(体操)でおさまることがあります。
筋肉トレーニングですので1度やっただけでは改善せず、毎日、継続して行うことが重要です。
器具を用いる方法(※根本的な治療ではありません)
①リングペッサリー
塩化ビニル製の柔らかい円形器具を腟内に留置します。腟壁にびらんや肉芽をつくり、オリモノが増えたり性器出血を起こすことがあります。
定期的に通院し、腟内洗浄したり抗生剤の腟座薬を挿入したりする必要があります。
自分で脱着できる人は、夜間は外しておく事をお勧めします。
写真:オリジオ・ジャパン提供
②フェミクッション(サポート下着)
ご自分で購入していただき、クッション部分(や下着)を適宜、洗って使用します。
写真:女性医療研究所提供