虫垂炎
虫垂炎とは
通常時の虫垂
炎症を起こした際の虫垂
虫垂炎とは、大腸の一部である虫垂(ちゅうすい)に炎症が生じている状態です。(一般的に「盲腸」と呼ばれることも多い病気ですが、正式名称は虫垂炎です。)小児から高齢者まで、幅広い年齢層において発症する、頻度の高い病気のひとつです。虫垂炎では右下腹痛や吐き気、食欲不振、発熱などの症状が現れますが、症状の現れかたは実に様々です。そのため、非常にありふれた病気ではあるものの、正確な診断が難しいこともあります。
症状
虫垂炎の症状は、時間経過に応じて変化するという特徴があります。初期の段階では食欲低下や気持ち悪さ、へその周囲の不快感などが自覚されます。炎症が波及するにつれて、痛みの症状は正中部から右下腹部へと移動するようになります。炎症が腹膜に広がると、高熱が出たり、痛みのために歩行困難にもなったりします。
検査・診断
虫垂炎の診断は、時間経過による症状の変化を確認することが重要です。検査時には、虫垂がある右下腹部を中心とした痛みがあるか、腹膜へ炎症が及んでいないかを確認します。初期には炎症の状態が血液検査の結果に反映されないこともあるため、腹部エコー検査やCT検査などといった画像検査により、虫垂の炎症状況を確認します。
治療
虫垂炎の治療方法は、
- 腸管の安静を保ちながら経過を見る保存療法と、
- 虫垂切除を行う手術療法
の二つが大きく存在します。
軽い症例には保存的治療、中程度の場合は手術というように、治療方法は進行の程度に応じて選択されます。
手術の方法には、比較的負担が少ない腹腔鏡下手術と、お腹を開く開腹手術の2つがあります。
重症例の場合は開腹手術が選択されることも多くなります。虫垂炎は、炎症が進行して重症化すると虫垂壁が破れる「穿孔(せんこう)性虫垂炎」に至ります。穿孔性虫垂炎のうち、時間が経過していない症例には手術が行われます。時間が経過して膿瘍(のうよう)を形成している場合は、抗菌薬による保存的治療を一定期間行い、一旦手術を回避したあとにタイミングを待って手術を行うこともあります。
虫垂炎の手術法
手術法には開腹手術と腹腔鏡出術があります。近年は傷が小さく、腹腔内全体の観察ができる腹腔鏡手術が広く行われています。お腹に二酸化炭素のガスを注入してすき間をつくり、腹腔鏡と呼ばれるカメラをお腹に差込み、お腹の中の様子をテレビモニターに映しだし、さらに数ヶ所の小さな傷から、手術器械(手術器具)を差し入れて、従来の開腹手術と同じ内容の手術を行います。この方法ですと手術の後に身体を動かしたり、食事を摂ったりできるようになるまでの時間が、開腹手術に比べて早いというメリットがあります。さらに、腹腔鏡手術はきずの大きさや数を減らすreduced port surgeryといわれる方法や1か所のきずからすべての操作を行う単孔式、などいろいろなアプローチ方法が開発されています。手術は全身麻酔で行います。腹腔鏡下虫垂切除術は保険診療となっています。
術後の経過について
手術後の経過は虫垂炎の重症度などにより変わります。炎症が高度な場合は手術時におなかにドレーンと呼ばれる管を入れたり、術後も抗菌薬を投与したりします。
待機的虫垂切除術について
近年の抗菌薬の開発により、急性虫垂炎を抗菌薬治療で抑え込む、いわゆる「ちらす」治療が広まりました。しかし、抗菌薬治療でいったん抑え込んでも約30%の方が再度急性虫垂炎を起こすという報告もあります。そこで、いったん抗菌薬治療で抑え込んだ後、炎症が落ち着いてから虫垂を切除する「待機的虫垂切除術」が広まってきています。特に初回の炎症が強く、虫垂の周りに膿がたまっているような方では有効と考えられています。当院では抗菌薬治療でおさえこんだあと、2、3か月後に手術をお勧めしています。この場合は炎症のない虫垂を切除しますので、術後の回復も早く2泊3日または3泊4日程度の入院で済むことが多いです。