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正確な診断と、迅速な治療で救命を進化する脳卒中の血管内治療

IMSグループ広報誌「マイ・ホスピタル」Vol.50 2015年 3-4月号 より抜粋

脳卒中で亡くなる日本人は、年間およそ11万8千人。がん、心臓疾患、肺炎に次いで死因の第4位を占めています。
救命の鍵は、超急性期における正確な診断と治療開始。2015年3月に新築移転した行徳総合病院では、そのための最先端検査機器と治療体制が整いました。特に注目したいのは、低侵襲な「脳血管内治療」です。脳神経外科・脳卒中センター長の中井完治先生に詳しいお話を伺いました。

生活習慣病のある方は脳卒中に要注意

脳卒中には、いくつかの種類があると聞きます。正確には どんな病気なのですか?

中井脳卒中は「脳血管疾患」に分類され、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と頭蓋内の血管から出血して血腫ができる「脳出血」に大別できます。さらに脳梗塞はその原因によって「脳塞栓」と「脳血栓」に、脳出血は脳実質内の細い動脈が破れる「脳出血」と、太い脳動脈にできたコブ=脳動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」に分類されるのが一般的です。
脳はほかの臓器と比べると酸素やエネルギーの必要量がとても多く、血流が滞るとその影響は甚大。血流が通常の40%以下に低下すると脳機能の麻痺が起こり、20%以下では、短時間で神経細胞が壊死してしまいます。

発症したら、一刻も早く専門の医療機関に搬送し、治療を開始することが肝心ですね。

中井7時間を超えると症状が良くなる確率より、死亡率が上回るというデータがあります。病気の種類や症状にもよりますが、臨床の立場からは1分でも早く来院してほしい。一命をとりとめられるか、体の麻痺や失語症などの後遺症を残さずに済むか、社会復帰を果たせるか、明暗が分かれます。

発症するとどんな症状が現れるのでしょう?

中井個人差があり、すべての症状が出るわけではありませんが、目安として、まず言葉が出にくくなります。特に舌を動かす「らりるれろ」や唇を使う「ぱぴぷぺぽ」がうまく言えません。食べ物も飲み込みにくくなることもあります。視覚では片方の目が見えない、あるいは視野が半分欠ける。体の半身が痺れる。片方の手や脚だけに力が入らず動かしにくい。突然のめまいや吐き気、嘔吐、意識障害。くも膜下出血では、経験したことのないような激しい頭痛に見舞われます。
疑わしいときは、ためらわずに救急車を呼んでください。

脳卒中に罹かかりやすいタイプはあるのですか?

中井高血圧、糖尿病、脂質異常症※の方が三大ハイリスク群。生活習慣病のために動脈硬化が進み、脳の血管が狭くもろくなっていますから要注意です。喫煙や大量の飲酒も引き金になります。脳卒中が怖いのは、ほとんど自覚症状がないまま、ある日突然発作が起こること。
予防のために、50歳を過ぎたら「脳ドック」を受診し、血管年齢をチェックしておきましょう。

※脂質異常症の診断基準:LDLコレステロールが140mg/dL以上を高LDLコレステロール血症。同120~139mg/dLを境界域。HDLコレステロールが40mg/dL未満を低HDLコレステロール血症。トリグリセライド(中性脂肪)が150mg/dL以上を高トリグリセライド血症とする。

病院搬送後は、即座に脳血管の精密検査を実施

発症後、病院ではどのような検査をするのですか?

中井脳の血管の状態と血流を中心に、病態を把握します。当院では新築移転を機に、最先端の検査機器を導入しました。アンギオ(血管撮影装置)は、バイプレーンといって、2方向から同時撮影でき、さらに細密な立体画像や血流分布図を描出できます。CT(コンピューター断層撮影装置)は80列マルチスライス。撮影時間が短くなり、脳の血流動態まで分析できるようになりました。また、CTとMRI(磁気共鳴画像装置)の画像は、3D画像を構成するワークステーション「ザイオステーション」で結ばれ、画面上で内視鏡下手術や血管内治療のシミュレーションも行えます。
検査から適切な治療へ、即座に移行する体制が整ったのです。

それぞれの疾患の具体的な治療について教えてください。

中井脳塞栓(心原性脳塞栓症)では、不整脈(心房細動)が原因で心臓の中にできた大きな血栓が、脳に運ばれてきて、太い動脈を塞ぎます。
発症後4時間半以内であれば、通常、血栓を溶かす薬を静脈から投与する「t-PA治療」が第一選択肢です。薬では溶解しない、あるいは発症後4時間半以降・8時間以内なら、血管内治療=「血栓回収療法」に移行します。

開頭手術は必要ない?

中井はい。血栓回収療法は局部麻酔でも行え、負担の少ない治療法です。脚の付け根の動脈から、カテーテルを脳血管の病変部分まで挿入し、血栓を除去します。回収器具は掃除機のように吸引するペナンブラ(アダプトテクニック)と、血管内でらせん状に広がり血栓を抱き込むステント(繊細な金属メッシュの筒)を使う2タイプ。両方を組み合わせる場合もありますね。血流が再開すれば、神経細胞の壊死を止めることができます。脳梗塞が落ち着いたときには、再発防止のため、抗凝固薬を内服することになります。

脳血栓の場合は?

中井「アテローム血栓性脳梗塞」ともいいますが、これは余分なコレステロールの残骸が、ドロドロのお粥状になって血管の内壁に溜まるアテローム性動脈硬化が誘因となるもの。アテロームが剥がれて血管が傷つくと、血小板が集まってきて血栓となり、脳動脈に詰まるのです。
治療はまずt-PA。血栓が大きい場合は血栓回収療法を検討します。部位によっては、動脈の狭窄を解消するため、カテーテルを入れ、バルーンと留置型のステントで血管を内側から広げる治療を選択することもあります。特に内頚動脈は、この「ステント留置術」が適応となることの多い部位です。ただし、ステントを留置すると血栓ができやすくなるため、数週間後状態が安定してからあらためて治療することが多いです。再発防止のために、アテローム血栓症の原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療を行うとともに、抗血小板薬を内服することになります。

脳ドックで首にある頚動脈が狭くなっていると判明した時は、脳梗塞予防のために、頚動脈ステント留置術(血管内治療)をすすめられることがあるでしょう。
なお、脳実質内の細く枝分かれした動脈が詰まる「ラクナ梗塞」では、カテーテルを入れられませんから、発症4時間半以内ならt-PA静注療法を行い、そうでなければ点滴治療、続いて抗血小板剤の内服になります。

くも膜下出血にも低侵襲な血管内治療が

くも膜下出血は、一番死亡率が高いと聞きます。どんな治療が有効ですか?

中井脳動脈瘤が破裂して出血がくも膜下に広がると、頭蓋内の圧力が一気に高まり、呼吸や循環器の機能に影響が出て、しばしば深刻な状態に陥ります。早急に動脈瘤の再破裂を防がなければなりません。
血管内治療としては、カテーテルで脳動脈瘤内に極細のプラチナコイルを送り込む「コイル塞栓術」があります。コイルが毛玉のように丸まって、コブの中に納まり、血流をせき止めてくれるのです。コブの形によっては、コイルの脱落を防ぐため、ステントが併用されます。

脳動脈瘤が頭皮に近く、形が複雑だったりする場合は、開頭手術を行い、コブの根元を専用のクリップで挟んで止血する「クリッピング術」を選択するのが一般的です。
脳動脈瘤ができる原因は、一部に遺伝が認められるものの、明らかではありません。1.5~5%の人に未破裂動脈瘤があるといわれ、脳ドックで見つかるケースも増えてきました。その中で本当に破裂してしまうのはごくわずかですが、もし直径が5mm以上で、少しずつ大きくなるようなら、予防のための治療を検討しましょう。

脳出血の治療は?

中井出血した部位や量で異なります。10mL以下であれば、血圧や脳の浮腫、頭蓋内圧を点滴治療で管理しつつ、血腫が自然に吸収されるのを待つのが一般的です。一方、血腫が大きい場合は、開頭もしくは神経内視鏡下の手術で血腫を取り除き、止血をします。

脳卒中は、再発する例も多いのですか?

中井はい。特に脳梗塞は1年以内に、10人に1人が再発しています。後遺症で介護が必要になる方も少なくありません。定期的に通院して画像チェックを受け、抗血小板薬・抗凝固薬などは医師の指示通りに服用を続けてください。生活習慣病を改善するために、食生活に気を配る、適度な運動をするなども心がけましょう。禁煙は必須ですよ(笑)。

肝に銘じます。ありがとうございました。