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人工関節・リウマチセンターの開設で整形外科医療のニーズに応える

IMSグループ広報誌「マイ・ホスピタル」Vol.52 2015年 7-8月号 より抜粋

超高齢化社会を迎え、首や肩、足腰に痛みを訴える方が増えてきました。骨粗鬆症による圧迫骨折、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの脊髄・脊椎疾患、腱や靭帯の炎症……。

地域の中核病院である行徳総合病院の整形外科には、従来の骨折・外傷に加えて、幅広い運動器疾患の治療が、総合的に求められています。「人工関節・リウマチセンター」を今年度中の設立に向けて準備を進めている中、陣頭指揮を執る朝田尚宏医師に、関節リウマチの最新治療を含め、現場の取り組みを語っていただきました。

総合的な医療を目指して

行徳総合病院は2015年3月に新築移転し、地域に根ざす高機能病院として新しくスタートを切りました。先生は金属インプラントを用いた脊椎固定術、人工関節置換術や、関節リウマチなどのスペシャリストとして、整形外科の一翼を担われていますが、まずは抱負からお聞かせください。

朝田整形外科の「総合診療医=ジェネラリスト」でありたいと思っています。整形外科は運動器疾患と外傷を扱う科ですが、近年は細分化・専門化が進んできました。たとえば脊椎・脊髄、股関節、膝関節、手、足、骨粗鬆症などなど、医師によって得意な部位がわかれているのです。そのため、複数の部位で関節リウマチを持つ方が大学病院などを受診すると、主治医が次々と交代して、たらい回しになりかねません。当科では複数の部位の関節リウマチを持つ患者さまを一人の医師が対処します。

お医者さまとの信頼関係が大切ですね。

朝田本来主治医の役割は、患者さまの病歴や体質、ライフスタイルなどをできるだけ把握し、20年後、30年後を見据えて、総合的な治療計画を立てることです。当科では医師一人ひとりが、どんな疾患にも対応できるよう、幅広い知識と医療技術の研鑽に励んでいます。それが総合的な医療の提供につながる。「病気を診るのでなはく、人を診る」をモットーとしたいですね。

心強い限りです。関節リウマチも、総合的な医療が必要な病気なのですか?

朝田その典型例と言ってよいでしょう。首から下の関節ならどこでも発症する可能性がありますし、薬の投与による内科的治療と、傷んだ関節の処置を行う外科的治療(手術)の両方が求められます。また、関節の温存や痛みの緩和を図るリハビリの指導も大切です。経過の長い病気ですから、前向きに治療を継続できるよう、精神的なサポートをすることも我々の仕事です。

関節リウマチの疫学

国内有病率0.5%(0.4~0.7%)
国内患者約60万~70万人
好発年齢30~50歳代(ただし、70歳以上の発症も増える傾向にある)
国内発症2万~4万人/年
性差男性 1 : 女性 5

早期発見・早期治療が大事

なぜ、関節リウマチが起こるのでしょう?

朝田私たちの体には、体内に侵入する病原体などの異物を排除し、健康を守る免疫機能が備わっています。
主に血液とリンパ液の中の免疫細胞の働きなのですが、これが体の正常な組織を異物と誤認して攻撃することがあるのです。「自己免疫疾患」と呼ばれ、関節リウマチでは、関を包んでいる「滑膜」が攻撃対象となります。
免疫細胞が「サイトカイン」という炎症性物質を放出するため、滑膜は腫れて痛みが発生します。同時に、骨と骨の間でクッションの役割を果たす「軟骨」をすり減らしたり、骨の新陳代謝を阻害し劣化させる、などの悪影響も与えます。重症化するとスカスカになった骨に滑膜が食い込み、関節が変形するので、強い痛みで曲げ伸ばしもできなくなるのです。

では、早期発見が大切になりますね。

朝田はい。以前は「慢性関節リウマチ」と呼ばれ、ジワジワと進行する慢性疾患と思われていましたが、最近の研究で、発症後数ヵ月以内に一気に症状が進み、関節破壊が始まることがわかり、正式名称から「慢性」の文字が外れました。また、当時は「関節リウマチ」と診断することがとてもむずかしく、適切な治療が遅れてしまうことが多かったのです。
2010年、関節リウマチに新しい分類(診断)基準が導入されました。腫れや痛みのある大小の関節の数、血液検査による免疫異常と炎症反応のレベル、症状の持続期間をそれぞれスコア化したもので、早期の診断がしやすくなりました。医師による患部の触診のほか、レントゲンやMRI、超音波などの画像診断も必要に応じて行われます。
関節のこわばり、対になる関節の痛みや腫れ、だるさ、微熱などの変調を感じたら、整形外科専門医かリウマチ専門医を訪ねてください。

治療を大きく変えた生物学的製剤の登場

どんな治療をするのですか?

朝田まず薬物療法です。第一選択肢は免疫機能を抑制するメトトレキサートなどの「抗リウマチ薬」です。次いで投入されるのが、遺伝子工学を活用した画期的な新薬として、2000年代初頭から、次々と開発が進んでいる「生物学的製剤」です。炎症を起こすさまざまなサイトカインをターゲットに、その働きを阻害します。症状を劇的に緩和するとともに、関節破壊の修復効果も報告されるようになりました。
この2タイプの薬剤の組み合わせが基本です。以前は炎症を抑えるため、よくステロイド剤が処方されましたが、感染症やステロイド性骨粗鬆症を招くなど、いろいろ厄介な副作用が起きてくることが問題です。

抗リウマチ薬や生物学的製剤に、副作用の心配は?

朝田残念ながらゼロではありません。免疫機能が下がりますから、感染症には注意が必要です。ほかに肝機能障害や消化器障害、ニューモシスチス肺炎などがあげられます。薬の効き方も副作用も人によって異なるので、患者さまに合わせて、薬を組み合わせたり、量を増減するなど、オーダーメイドの処方が重要です。どうしたら安全に、かつ最大の効果を引き出せるかが、リウマチ専門医の腕の見せどころでしょう。
「DAS28」という病気の活動性を評価する指標に基づいて、定期的に患部を確認し、薬をコントロールしていきます。症状がおさまり、寛解と診断されても、再発の可能性は捨てきれません。私は寛解が達成されても少量の薬の継続をおすすめしています。

手術にはどのような種類があるのでしょう?

朝田一つは、炎症を起こし増殖した滑膜を取り除く「滑膜除去術」です。生物学的製剤との組み合わせで、人によっては症状がほとんど消えてしまうこともあります。膝や肩関節では、小さな穴をあけるだけで処置できる、関節鏡下手術が可能です。 関節の破壊が進み、恒常的な痛みや、日常生活動作に大きな支障がある場合は、人工関節に置き換える手術が検討されるでしょう。肩・肘・手指・股関節・膝の人工関節が開発されています。ただ、耐久年数は15〜20年と考えられていて、再手術は困難なものになるので、60歳以下の方の手術の適応には、慎重な判断を要します。

期待が高まる最少侵襲の人工膝関節置換術

先生は、人工膝関節置換術で、体への負担が少ない術式を採用されていると伺いました。

朝田MIS=最少侵襲手術といいます。関節リウマチのほか、加齢などで膝の軟骨がすり減って痛みがでる「変形性膝関節症」の方も対象です。人工膝関節は大腿骨をすっぽり包む大腿骨コンポーネントと、脛けいこつ骨を削って差し込む脛骨コンポーネントの2つからなり、軟骨にあたる部位に、摩耗しにくいポリエチレンが使われています。

従来の手術では、膝の正面を20センチほど縦に切開し、邪魔になる膝蓋骨をひっくり返す必要がありました。大腿四頭筋も大きく切開することになります。

私の術式では12センチほどの切開にとどめ、膝蓋骨は横にずらすだけで済み、大腿四頭筋も、一部の内側広筋を斜めに短く切るだけで大腿骨の遠位部を横から8ミリ切除します。痛みが少なく傷の回復が早い、空気に触れる面が少ない分、感染リスクが低い、術後すぐでも太腿を引き上げる筋力を温存できる、などのメリットがあります。

出血はどうですか?

朝田多くの場合、人工関節を固定するために、骨セメントを用いますから、出血を抑える効果は期待できます。
また、当院では術後出血回収装置を使い、特殊なタンクで血液を濾過して、遠心分離器で赤血球だけを抽出し、体に戻しています。ですから輸血の必要は基本的にありません。

手術時間は?

朝田およそ1時間40〜50分。2時間以内の手術を目指しています。術後数日から1週間以内にはベッドに起き上り、その翌日には歩行器を使って、リハビリを開始できます。入院期間は約4週間を見込んでください。
長年の痛みから解放され、自分の脚で歩く自由を取り戻した患者さまの笑顔を見ると、整形外科医になってよかったと、改めて思います(笑)。

ありがとうございました。